乳がんは、その発育速度で、ゆっくりゆっくり成長するタイプと、とても成長の早いタイプの2種類のがんにわけられます。多くの、ゆっくりと成長するタイプの乳がんは、1個の細胞から、1cmまで成長するのに約10年かかると言われています。この10年の間に、4-5回、乳がん検診を受けていただくことにより、なんとか乳がんを早期発見したいものです。現在、1年おきにマンモグラフィによる乳がん検診が推奨されていますが、1年前なら覚えているけれど、2年以上前の記憶って曖昧ですよね。偶数年齢での乳がん検診受診を推奨としていた自治体もあったようですが、困ったことに、5歳刻みの乳がん検診無料クーポン券が配布されたために、多少、検診間隔に混乱を招いてしまっております。忙しかったり、職場の異動だったり、几帳面な方でも、現実的には、検診間隔が、おおむね4-5年ごとになってしまっており、残念ながら、早期とは言い難い状態で診断されているのが現状です。早期発見のために、是非、1年おきに乳がん検診を受けていきましょう。
残念ながら、もう一方の成長の早いタイプは、とても短期間で、倍の大きさに成長し、リンパ管や血管にはいりこみ、リンパ節へ、そして肺、肝臓へと転移してしまいます。このタイプの乳がんは、1年おきの乳がん検診だけでは救命が難しいがんと言えます。定期的に乳がん検診を受けていても、もし、しこりや、違和感があった場合には、早めに乳腺外来を受診しましょう。
マンモグラフィ(MMG:Mammography)
マンモグラフィ検査とは、乳房を平たく押さえてレントゲン写真を撮ることに より、乳腺内の異常を調べる検査です。がんの腫瘤そのもの、がんの証拠となる石灰化 、引きつれなどを、見つけ出します。※非触知の早期乳がん発見につながる検査のひとつです
マンモグラフィ検査は、X線を利用します。健康には影響のないX線量ですが、薄くすることでさらにX線被曝を低減できます。 マンモグラフィ検査による被曝が気になることと思いますが、地球上で生活していると、年間に2.4mSVの自然放射線を浴びています。東京から米国までの往復で約0.08mSVの被曝をする事がわかっていますが、マンモグラフィは、1回の検査でこの半分の約0.038mSvの被曝を受けます。むやみに被曝を受けるべきでは、ありませんが、40歳以上の年齢で、マンモグラフィ検査を受けることのメリット・デメリットを考えると、是非、一年おきのマンモグラフィ検診をおすすめします。
このようなレントゲン被曝に関してのご相談を受けるたびに、かつて胃X腺二重造影法を作り上げた先生方の尋常でない被曝のことを、いつも考えてしまいます。
乳がん検診無料クーポンの配布が2009年度から開始されました。
増加し続ける乳がんによる死亡数を減少させるためには、検診によって乳がんを早期発見し早期治療へとつなげていく必要があります。働く世代の女性支援のためのがん検診推進事業として、40歳から60歳までの5歳刻みにクーポンの配布が始められました。
2014年度は、2009~2012年までのクーポン『未利用者』を対象に配布されました。今回が、対象者への、最後のクーポン配布となりますので是非この機会にご利用ください。 残念ながら、今後クーポン配布は、廃止予定となっています。(→ 2015年度から、40歳を対象に、クーポン配布が継続される予定となりました。今後は、乳がん健診開始の『40歳のみ』に、配布されていくことと思います。)
この無料クーポンに関連して、2点の誤解が生じております。
① クーポン配布が5歳きざみでしたので、乳がん検診を5年ごとの受診と誤解されているようですが、。現在でも乳がん検診は、2年ごと(隔年)での受診が推奨されています。
② 働く世代支援として60歳までクーポンが配布されましたが、70歳でも、80歳でも乳がんは、生じます。特に60歳代でもまだまだ高い罹患率ですので、是非乳がん検診を受診しましょう。
現在、本邦では、女性特有のがん検診事業として、子宮頸がん検診、乳がん検診クーポンが、平成25年度から働く世代の大腸がん推進事業として、大腸がん検診クーポンが配布されています。いずれのクーポンも、社会において、家庭において大きな役割を担う世代の病を早期に発見・早期に治療することによって、日々健やかに過ごしていただける事を願い、実施されております。是非とも、この機会にご利用ください。
ボルパラ(Volpara)判定
マンモグラフィ検査において、以前から乳腺濃度(レントゲンの通過しずらさ)は、脂肪性、乳腺散在、不均一高濃度、高濃度と4分類されており、乳腺濃度の髙い高濃度乳腺は、石灰化や腫瘤のカゲが正常乳腺に隠れてしまって描出されづらく、マンモグラフィ検査が苦手とする乳腺とされています。
ボルパラ(Volpara)判定とは、この乳腺濃度をデジタル画像から、客観的に数値化して判定する方法です。この判定で、高濃度の乳腺と判断されたからといって、決して乳がんになりやすいと心配される必要はありませんが、この高濃度の乳腺の場合、マンモグラフィのみでなく、乳腺超音波検査を組み合わせることにより乳がんの見逃しを防ぐことが検討されています。
現在普及している超音波画像診断法は、和賀井敏夫順天堂大学名誉教授によって開発されました。NHKのプロジェクトX『創意は無限なり・超音波診断機エコー』で、ごらんになった方もいらっしゃるかと思いますが、潜水艦を見つけるソナー技術の原理を応用し、組織に当てた反射音波を画像として描出し、体内の異常を発見する技術です。
マンモグラフィと超音波検査とどちらが精密な検査なのかと、よく質問されますが、どちらの検査も、得意な病変、不得意な病変があります。しこりの良・悪性を判断する事は、超音波検査の得意とするところです。超音波検査の最大のメリットは、放射線による被曝のないことです。世界に類のないほど、日本中には、この装置が普及しています。デメリットは、検査担当者の技量、検査機器の質により精度のばらつきが生じてしまう点です。現在のところ、対策型乳がん検診(住民検診)で、乳腺超音波検診は、推奨されていません。その一つの理由は、たくさんの良性病変(嚢胞、繊維腺腫などの良性腫瘍)を見つけることになるが、良性と断定することが難しいため、不必要な検査を受けていただくことになってしまうためです。マンモグラフィ検診で、がんの証拠をとらえるのが時として難しい40歳代での有効性が現在検証されている段階です。
2006年 和賀井敏夫先生は、日本の学術賞として最も権威ある、日本学士院賞を受賞されました。
NHK『プロジェクトX』制作班 編集
良性腫瘍にしても、悪性腫瘍にしても 『手術』 予定となると不安なことが多々生じてくることと思われます。マンモグラフィ、乳腺エコーなどの資料をお持ちいただければ、より具体的にセカンドオピニオンの呈示ができますが、事情により画像の準備が難しい場合でも、お話しをお伺いすることはできますので、外来でご相談下さい。患者さんご本人が来院された場合は、保険診療の対象となります。セカンドオピニオンの予約は、通常の診療同様にお電話で予約をお願いいたします。